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運送業において荷主と運賃の値上げ交渉をする際のポイントと法的な注意点
目次
第1 はじめに
運送契約を締結してからしばらくして、改めて採算面を検討した結果、荷主と当初合意していた運賃を値上げしたいと考える運送業者の方は多いと思います。この場合、荷主と値上げ交渉をする必要がありますが、当然荷主にとって運賃の値上げは望ましいことではないことから、交渉が難航してしまうおそれもあります。
そこで、今回は、荷主と運賃の値上げ交渉をする際のポイントと注意点について、法的な側面を中心に解説していきます。
第2 値上げ交渉の重要性
運送業は、日本の生活・経済を支える重要な役割を果たしているにもかかわらず、近年、低賃金・長時間労働などの労働環境の悪化により、残念ながら、ドライバーになる方は減ってきています。このままでは、近い将来、これまでのような安全で良質なサービスをもって荷物を運ぶことができなくなり、ひいては日本の生活・経済にまで影響を及ぼしかねません。
そのような状況を避けるためには、運賃の値上げが必要な場面において、運送業者が荷主と対等な立場で交渉を行って、適正な運賃に改善していくことが重要です。
第3 値上げ交渉の注意点
1 交渉方法
運賃の値上げは、契約内容の変更になる以上、契約当事者双方の合意が必要となります。そこで、運送業者としては、一方的に値上げの通知をするだけでは意味がなく、運賃の値上げについて荷主に説明をした上で、荷主との間で値上げの合意を成立させる必要があります。
しかし、当然のことながら、値上げに素直に応じる荷主は少ないでしょう。ただ、荷主にとっても物流網の安定的な確保は重要な経営課題です。そこで、荷主になぜ値上げが必要なのかを丁寧に説明し、納得してもらう必要があります。
具体的には、燃料費、人件費等のコストに関する客観的なデータを用いた車両別原価表と依頼文書を作成して荷主に提示するなどして、価格の根拠を合理的に伝えるのが望ましいでしょう。燃料費や人件費等の上昇分については、以下のサイトが参考になります。
・燃料費の参考資料
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl007/
・人件費の参考資料
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1.html
また、燃料費については、燃料サーチャージ(燃料等の価格の上昇・下落によるコストの増減分を別建ての運賃として設定する制度)の意義や必要性を荷主に伝えた上で、燃料サーチャージの導入を荷主と協議することも有効といえます。
ご存じな方も多いとは思いますが、国土交通省から標準的な運賃の告示制度が導入されています(令和2年4月24日告示「法令を遵守して、持続的に事業を行う際の参考となる運賃の告示」)ので、これらの運賃表を参考に荷主と交渉されてもよいでしょう。
2 荷主から合意が得られない場合
基本的には、合意が得られない以上、契約内容の変更ができないため、運賃の値上げはできません。
他方、値上げ交渉をしたら荷主の商品を購入するよう要求してきた、もしくは、その商品の購入を断ったら取引の量を減らしてきた、といったような場合、荷主の当該行為は物流特殊指定の禁止事項に該当する可能性があります。
物流特殊指定とは、荷主と物流業者の取引における運送・保管サービスの取引に関する優越的地位の濫用を効果的に規制するため、独占禁止法に違反するおそれのある行為事例を指定したものです。
物流特殊指定では、
① 代金の支払遅延
② 代金の減額
③ 買いたたき
④ 物の購入強制・役務の利用強制
⑤ 割引困難な手形の交付
⑥ 不当な経済上の利益強制
⑦ 不当な給付内容の変更及びやり直し
⑧ 要求拒否に対する報復措置
⑨ 情報提供に対する報復措置
が禁止されています。そして、荷主にこれらの禁止行為が認められた場合、公正取引委員会が違反行為を是正させる措置を講ずることになります(警告、注意、排除措置命令等)。
そこで、荷主から物流特殊指定の禁止事項に該当する対応を受けた場合には、荷主の要求が禁止されていることを主張し、粘り強く説得を行うことが重要です。例えば、値上げ交渉をしたら荷主の商品を購入するよう要求してきた場合には、④物の購入強制に該当しますし、この要求を断ったことを理由に取引の量を減らしてきた場合には、⑧要求拒否に対する報復措置に該当することになります。
上記のような禁止事項に該当する対応を受けたと思われる場合には、一度、公正取引委員会の物流特殊指定の相談窓口にご相談するとよいでしょう。相談の結果、公正取引委員会が調査を行い、禁止行為に該当すると判断した場合には、排除措置命令を出し、当該違反行為を是正させることになります。
3 運賃値上げの合意が成立した場合
無事に運賃値上げの合意が成立した場合でも、それだけで安心してはいけません。運賃の値上げを口頭での確認のみで済ませてしまうと、後に、当事者間で運賃について紛争が起きた場合、値上げの合意があったことを立証するのが困難になります。
そこで、紛争予防の観点から、覚書を作成することが重要です。覚書の内容としては、
① 元々存在する運送業務委託契約書に関する覚書であること
② 値上げの対象となる運送ルート
③ 値上げ後の値段表とその値段表が開始される開始日
④ 双方の署名(又は記名)押印
を最低限記載しておくべきです。覚書を作成する際には、できる限り記憶が鮮明な交渉後数日中に作成し、荷主と共有するのが望ましいでしょう。
第4 終わりに
今回は、値上げ交渉をする際の注意点や合意後の対応等について紹介しました。運賃の値上げを考えているが、交渉方法が分からずお困りの方は、この分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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