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運送業務委託契約書で定めるべき事項と注意点
目次
1 はじめに
運送業務委託契約を締結する場合には、運送業務委託契約書を作成しておくことが重要です。その際、後でトラブルにならないように必要かつ十分な事項を定めるとともに、運送会社(自社)にとって不利な規定が入っていないか、不利な規定が入っているとしてどのように対処すべきかを検討する必要があります。自社が不当に重い責任を負ってしまうといった事態を避けるためにも、可能であれば、顧客の側で準備した標準契約書ではなく、自社が準備した標準契約書をベースにするようにしましょう。
なお、運送業務委託契約書では取引についての基本的な事項(原則として変更が予定されていない事項)を定め、個々の項目の具体的内容は覚書に記載するとともに、発注内容その他の運送ごとに定める事項については発注書に記載するのが一般的です。
2 運送業務委託契約書で定める基本的事項
運送業務契約書で定める基本的事項として、以下のようなものが考えられます。
(1)委託する業務の範囲
まず、どのような業務を委託するのかを明確にしておく必要があります。この点を 明確にしておくことが、料金その他の条件を定めるうえでの前提となります。もっとも、荷物の運送や保管の具体的な方法については、覚書により定めるのが一般的です。
(2)料金・改定手続・支払方法
不当な減額等を防ぐため、料金や支払方法を定めておきましょう。料金については、燃料価格等の変動に対応できるように、具体的金額を覚書により定めるとともに、契約書中で改定の手続を定めておくことが一般的です。
(3)損害賠償責任
荷物の損傷や滅失、又は事故による人身や物件の損害等が生じた場合に自社が負う損害賠償責任の範囲についても、合理的な範囲内になるように定めておくべきです。
たとえば、荷物の滅失による損害であれば、賠償の範囲は荷物の価額を限度とすることが考えられます。
なお、自社の責めに帰すべき事由によらない(不可抗力等による)延着や荷物の滅失等の場合には、自社が免責される旨の条項を入れておくことが望ましいでしょう。
(4)契約期間
契約の有効期間(契約の開始日と満了日)を定めておきましょう。なお、満了日前の一定期間内に一方から更新拒絶の申入れがない場合には、1年単位で自動更新される旨(自動更新条項)を定めておくことが一般的です。
(5)中途解約
契約の満了日まで契約を継続することが自社にとって不都合となったような場合に備えて、満了日前でも一定の予告期間を設けることで契約当事者の一方が契約を解除できる旨(中途解約条項)を定めておくことが考えられます。
ただし、この場合には、相手方としても一方的に自社との契約を解約できることになりますので、この点をふまえて中途解約条項を設けるかどうか、設けるとして予告期間をどの程度とするべきなのか等について慎重に検討する必要があります。
(6)解除
当事者の一方について一定の事由(契約条項への違反等)が生じた場合に、もう一方の契約当事者が催告をしても当該事由が是正されないときは、契約を解除できる旨を定めておくことが考えられます。
暴力団関係者に該当することといった、催告することなく契約を解除できる(無催告解除)事由を定めることもあります。
3 下請業者との間の運送業務委託契約
下請業者との間で運送業務委託契約を締結する場合には、顧客との間で締結した運送業務委託契約と対応した内容になっているかどうかについて、十分に検討しておく必要があります。
たとえば、下請業者が自社に対して負う賠償責任の範囲を限定的に定めている一方で、顧客に対して自社が負う賠償責任の範囲を広く定めていたとします。この場合、下請業者の側の問題によって顧客に損害が生じれば、自社が顧客に対して負う損害賠償額が、下請業者に請求できる損害賠償額を上回ってしまい、差額分の損失を受けるような事態になりかねません。
4 最後に
以上のとおり、運送業務委託契約書を作成するにあたっては、後のトラブル防止のために、個々の状況に応じた様々な検討を加える必要があります。もし、「運送業務委託契約を締結したいが、どのような契約書を準備すればよいか分からない」、あるいは「顧客の準備した契約書について不安な点がある」といったことでお困りなら、運送業務委託契約に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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