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自然災害が発生した場合の運送業と倉庫業における法的リスクとは~強靱で持続可能な物流ネットワークの構築を目指して~
目次
1.はじめに
今年も日本各地で、台風や豪雨、地震などの自然災害が発生しています。また、世界中でコロナウイルスが猛威をふるっています。これでは、いつ物流が途絶するかわかりません。運送業や倉庫業を営む経営者の方にとっても、事業の継続にかかわり得る深刻な問題だと思います。
今年6月に、総合物流施策大綱が閣議決定され、「強靱で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流の実現)」が、物流の目指すべき方向として示されました。災害に耐えうる物流を構築するうえで、自然災害へのリスク対策はもはや必須といえるでしょう。自然災害において生じ得るリスクとしては、物理的なものだけではなく、法的なものも当然に含まれます。
以下、自然災害が発生した場合の運送業と倉庫業における法的リスクについて、説明し
たいと思います。
2.自然災害についての運送業における法的リスク
(1)標準貨物自動車運送約款について
荷送人から運送依頼があった場合、運送業を営む方のなかには、契約書を作成せずに、電話などの口頭により対応される方も多いのではないでしょうか。
そこで、国土交通省は、運送の対価としての「運賃」及び運送以外の役務等の対価としての「料金」を適正に収受できる環境を整備することを目的として、標準貨物自動車運送約款(以下「標準運送約款」という。)を定めています。
そして、自ら約款を作成しない場合でも、貨物自動車運送事業法においては、「一般貨物自動車運送事業者が、標準運送約款と同一の運送約款を定め・・・たときは、その運送約款については・・・認可を受けたものとみなす。」(同法第10条第3項)と規定しており、多くの運送業者は、標準運送約款と同一の運送約款を定めているものと思われます。
その結果、荷送人とこれらの運送業者間の取引における法的関係は、「特約」がない限り、標準運送約款に従うことになります。
(2)自然災害発生時の荷送人と運送業者間の法的関係について
では、自然災害が発生し、配送を依頼されていた貨物が滅失、き損(※)した場合、荷送人と運送業者間の取引に関する法的関係はどのようになるのでしょうか。標準運送約款と同一の運送約款を定めている場合を前提に、以下説明します。
(※)き損・・・物をこわすこと。損傷
まずこの場合、貨物の滅失、き損の原因は自然災害であり、通常運送業者に過失はないことから、貨物の滅失、き損について、運送業者に賠償責任は発生しません(標準運送約款44条「当店は、次の事由による貨物の滅失、き損、延着その他の損害については、損害賠償の責任を負いません。」5号「地震、津波、高潮、大水、暴風雨、地すべり、山崩れ等その他の天災」)。
また、貨物が滅失した場合、運賃請求権については消滅し、運送業者は荷送人に受領済みの運賃を返さなければなりません(標準運送約款35条第1項「当店は、貨物の全部又は一部が天災その他やむを得ない事由・・・により滅失したときは、その運賃、料金等を請求しません。この場合において、当店は既に運賃、料金等の全部又は一部を収受しているときは、これを払い戻します。」)。
一方、貨物がき損した場合の運賃等の取扱いについては、標準運送約款には規定がありません。
さらに、貨物がき損した場合、処分費用の発生が考えられます。この点、運送業者に賠償責任が発生しない以上、本来この処分費用は荷送人の負担となるはずですが、実際には請求することが困難なためか、運送業者が負担した事例もあると聞いています。
ほかにも、今後の荷送人との取引関係を良好にする意味で、運送業者が荷送人に対し、災害見舞金をお渡しする場合も考えられます。
このように、自然災害によって預かった貨物が滅失、き損した場合でも、運送業者に思わぬ経済的負担が生じるおそれがあるのです。
3.自然災害についての倉庫業における法的リスク
(1)標準倉庫寄託約款について
運送業者のなかには、倉庫業を営まれている方や、倉庫業者と契約されている方も多いのではないでしょうか。
では、自然災害が発生し、倉庫業者に寄託していた荷物が滅失、き損した場合、寄託者と倉庫業者との取引に関する法的関係はどのようになるのでしょうか。運送業者の場合と同様に、倉庫業者の場合も、国土交通省において標準倉庫寄託約款(以下「標準倉庫約款」という。)が定められており、多くの倉庫業者は、標準倉庫約款と同一の倉庫寄託約款を定めているものと思われます。
その結果、寄託者とこれらの倉庫業者間の取引における法的関係は、「特約」がない限り、標準倉庫約款に従うことになります。そこで、この約款が適用される場合を前提に、以下説明します。
(2)自然災害発生時の寄託者と倉庫業者間の法的関係について
まずこの場合、荷物が滅失、き損した原因は自然災害であり、通常倉庫業者に過失はないことから、受寄物の滅失、き損によって発生した損害について、倉庫業者に賠償責任は発生しません(標準倉庫約款40条(1))。
また、受寄物が滅失した場合、それまで発生している倉庫の保管料については消滅しません。そこで、倉庫業者は寄託者に対し、この保管料を請求することができ、また支払い済みの分は返す必要はありません(標準倉庫約款51条)。
ただ、この条項は、き損の場合については触れられておらず、その場合の保管料の取扱いについては明らかではありません。
もっとも、き損によって受寄物が保管に適しなくなったと認められるとき等は、受寄者に対して相当の期間を定めて適宜の処理をすすめるよう催告でき、受寄者が催告に応じない場合は倉庫業者が廃棄その他の適宜処分を取り、それに要した費用は受寄者に請求できる(標準倉庫約款22条)ことが認められています。つまり、自然災害によって、き損品が発生した場合でも、保管に適しなくなったと認められるとき等には、本来、処分費用等については寄託者が負担すべきということになります。
しかしながら、処分費用等の負担について、実際には請求することが困難なためか、取引の力関係が影響するおそれがあるのは、運送業者の場合と変わらないでしょう。
ほかにも、今後の寄託者との取引関係を良好にする意味で、倉庫業者が寄託者に対し、災害見舞金をお渡しする場合が考えられることは、運送業者の場合と同様です。
4.まとめ
以上のとおり、自然災害が発生した場合における荷送人と運送業者間及び、寄託者と倉庫業者間の各取引における法的関係について、説明させていただきました。
運送約款と倉庫約款では、荷物が滅失した場合の運賃請求権と倉庫保管料の取扱いについて異なります。また、き損した場合の取扱いについてはいずれも明らかではありません。さらに、現在流行しているコロナ禍が自然災害に該当するのか否かについても、これらの約款からは明らかではありません。
そこで、運送業者や倉庫業者は、約款だけでなく、事前に当事者間で取り決めしておき、その旨を明記した契約書を作成しておくことも重要な対策かと思われます。
また、荷送人又は寄託者との力関係によっては、思わぬ経済的負担を強いられるおそれがあります。
運送業や倉庫業を営む経営者の方は、自然発生時の法的リスクについて、正しく理解し適切に対応していくことで、災害に耐えうる物流の構築を目指しましょう。
(上記原稿は、2021年10月6日にAIG損害保険株式会社様が発行するメールマガジンに寄稿させていただいた内容と同様のものとなります。)
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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